タイトル未定

ある日、小学四年生のゆなは、友だちのメイとケンカした。
ゆなとメイは、毎朝二人で学校に行く、という約束をしていた。だが、その日の朝、ゆなが約束の時間が5分たっても、10分たっても、メイが来ない。
事故でもあったのかと心配していたゆなの気持ちを打ち消すように、15分遅れてゆなの正面からメイが走ってきた。ゆなが、何があったのかメイに尋ねたところ「ごめん、ごめん。ねぼうしちゃって・・・」。軽く謝罪はされたが、結局メイの15分のせいで二人そろって遅刻になってしまった。ゆなはクラスではそれなりの優等生だったため、ゆなには遅刻という事実は受け入れがたかった。
その気持ちをゆなにぶつけたところ、「もう誤ったんだからいいでしょ!しつこいなあ!」と言われた。そのゆなの態度に対して、メイは「もういい、ゆななんて大っきらい!」ゆながメイに放った言葉はそれが最後だった。

そして、その日の学校の帰り道。ゆなは、少しずつ自分がメイに放った言葉を後悔しはじめていた。今回の件に関しては、メイが悪いという気持ちはずっと持っている。それでも、言いすぎた。メイと友だちでなくなるのは嫌だ。明日謝ろう、そう考えながらゆなが公園の前を横切ろうとしたときだった。

 「ニャー」
公園の奥から猫の鳴き声が聞こえた気がした。ゆなはその猫のことが何となく気になり、鳴き声の聞こえた方向に向かった。



しかし、その猫は、ゆなの想像していた普通の猫ではなかった。「捨て猫!」その猫は、段ボールの中に捨てられていた。
そして、その猫は、近所ではめったに見かけないような三毛猫だった。ゆなは、そのとき、その三毛猫は何としても助けなければ、という謎の正義感のようなものにかられ、気づけば、ゆなはその三毛猫を抱き上げて走っていた。これからこの猫を飼ってもいいか親に訊いてみよう。それだけを考えて、ゆなは両手で猫を持ったまま家に走った。
しかし、親から放たれた言葉は、ゆなが望んでいたものでは決してなかった。「だめ」。その二文字だけで、ゆなの望んでいた結果は打ち消された。

しかし、ゆなはそう簡単にあの三毛猫のことをあきらめることができなかった。その日の夜は、やむを得ず、猫を元の段ボールに戻してきたものの、晩ご飯中も入浴中も、睡眠中の夢のなかにも、ゆなの頭から三毛猫が離れることはなかった。それでもゆなひとりではどうすることもできなかった。とにかく今できることは何か、と頭を巡らせたゆなは、学校に登校する際に家から5BLほどのミルクを持っていくことにした。

通学路の途中で三毛猫のいた公園に立ち寄ったゆなは三毛猫の入った段ボールの中にミルクを置いて学校へ向かった。
学校に到着したゆなは昨日ケンカしていたことも忘れて教室でメイに声をかけた。「メイ!」実際にゆなが頼れる存在はもうメイしか残っていなかった。
「な、なに?!言っておくけど私は謝ら・・・」「捨て猫がいて!」「え?」

二人はその日の下校中、三毛猫がいる公園に向かった。段ボールの中の三毛猫を覗き込んだメイは、一瞬驚いたような顔をしたあと、視線を三毛猫からゆなに移した。
「本当だったんだ」「なんで嘘なんかつかなきゃいけないのよ」「いや、信じなかったわけじゃないんだけどさ」メイは腕を組んで考えるしぐさを見せたあと、ゆなにこう言った。
「わかった。わたしの家で帰る可能性は低いかもしれないけど・・・。とりあえずここでの世話には協力するよ。」メイは真剣な面持ちで言った。ゆなはその言葉にとても救われた気がした。「じゃあ明日から毎朝この子に何か持ってくること!いいね?」
「もう、なんでメイが決めてくるの?・・・まあ、いいか。じゃあ、そういうことで。あと、この子の名前決めたほうがいいと思うんだけど」「うーん、そうだなあ。じゃあ、ミャオで!」「適当だなあ」

こうして、二人はいつの間にか仲直りを済ませ、毎朝二人で登校中にミャオのもとに立ち寄って食べ物を与え続けた。しかし、ミャオは誰かに拾われる気配は一向にない。
だが、ゆなとメイの当初の目的であった「飼い主が見つかるまでミャオの面倒を見よう」というものはだんだんと崩れつつあった。二人の今の目的は「ミャオの面倒を見よう」になってきていたのであった。

二人がミャオの面倒を見始めて三週間ほどがたった日のことであった。いつもどおりゆなとメイが家からこっそり持ってきた食べ物を手にもって公園にやってきた。そして二人はミャオの段ボールを見て衝撃を受けた。
「ミャオが・・・いない?」
昨日までは確かにいたミャオが、そこから消えていた。
「な、なんで?昨日まではいたのに・・・。なんで?!」メイはパニックになってゆなの両肩をつかんで揺さぶった。
「メイ落ち着いて。そんなの私にだってわからないよ。・・・でも、普通に考えてみてよ、きっと誰かに拾われたんだよ・・・」
冷静さを保とうとするゆなだが、ゆなの顔に焦りの表情があった。
「・・・ご、ごめん」「ううん、放課後になったらここでミャオについて聞いてみようか」

2人は学校にいる間もずっとミャオのことを考えていた。誰かに拾われていたらどうしよう、もう会えなくなったらどうしよう。最初はこのことを望んでいたはずなのに、ゆなとメイはどうしてもその可能性を素直に喜ぶことはできなかった。 そしてその日の放課後、二人は公園にやってきた。
公園に行った二人はまず初めに自分たちの記憶を確かめるようにミャオの入っていた段ボールの中を覗き込んだ。しかし、やはりその中には子猫の姿はなく、ゆなの家から持ってきた薄い毛布が入っているだけだった。
それを見た二人は顔を見合わせて大きくうなずいたあと、公園にきている人に声をかけ始めた。ところが、ミャオのことを知っている人は一人も見つからなかった。

それからあっという間に六年という月日がたった。できるだけ近い高校を、と母校の小学校からそう遠くはない高等学校を選んだメイと、少し小学校から離れたところにある比較的偏差値の高い高等学校に入学したゆなは、中学校の卒業式で顔を合わせたきり、あててゃなしをする機会がなかったが、メイから「久しぶりに、積もる話がしたい」とのことで、約二年ぶりに顔を合わせて、カフェで話をすることになった。

「これおいしいなぁ、ゆなのはショートケーキかー」
メイは自分のパフェをほおばりながらゆなのケーキを指でさした。「こっちもおいしいよ。少し食べる?」「ん?こっちのほうが絶対おいしいから、いいや」「そんなの食べてみないとわからないじゃん」
ゆなはメイの言葉にムッとして、パフェを食べようと大きく口を開けたメイの口の中にケーキを押し込んだ。「もごっ」
そのあと、メイは何度かむせこんだあとに「な、なにすんの?」「メイが私のケーキをバカにしたから」「だからってなんで急に入れるの!」
六年前のケンカをした日と同じような空気が二人の周りに張り詰め始めたなか、ゆなの視界の片隅に“何か”が映り込んだ。とたん、ゆなは小さくつぶやいた。

「ミャオ・・・?」「は・・・?」ゆなが見たのは「カフェの看板猫」と描かれた板の隣で丸くなる猫だった。
その毛、その耳その色、すべてがゆなの六年前の記憶のなかの猫と一致した。ゆなの言葉に一瞬戸惑いを見せていたメイもそのことに気づき、即座にゆなと猫のもとに駆け寄った。
「ミャオ・・・。ミャオだぁ・・・」たまらずに猫を抱え上げ抱きしめてしまったゆなだったが、不思議なことに警戒心の高いはずの猫が暴れることはなかった。
これがなぜか、考えられる理由が一つあった。

「ねえ、私たちのこと覚えてるんじゃないの?」
まさに、それが“考えられる理由“だった。
「そっか、じゃあやっぱりミャオ・・・」

「あの、お客様、猫に触れるのはご遠慮いただきますようお願いいたします・・・」
カフェのウェイトレスの一人が猫の看板の隅に書かれた「ふれあいはご遠慮ください」の部分を指して言った。しかしゆなはそれに従うようなそぶりは一切見せず、猫を抱えたまま。
「あの、この子を拾った方はここにいますか?」
「え?ああ、少々お待ちください」
ウェイトレスは困った顔を見せつつも、レジに向かって駆けていった。

「へぇ、あんたたちがこの子を助けてくれたのかい。」「はいっ」
二人はこの店の店長に声をそろえて言った。
「どうりで毛並みはかなり汚れているのに、空腹はあまり感じていなかったわけだ。」
あははと笑うそのふくよかな女性の話によると、あの日、ミャオがゆなとメイの前から姿を消した日の早朝に、女性が段ボールの中のミャオを見つけ、カフェで飼うことを決めたという。
「はー、でもよかった。数年間背負ってきた重荷がなくなった感じ・・・」 メイはその場で思い切り安堵の息をついた。
「ていうかメイ、ミャオってすごいよね」
ゆなは突然口を開いた。 「何が?」「ミャオって私たち二人がケンカしてると姿を現すっていうか・・・」
「そうだね、ミャオがいれば私たちは仲直りができる!」

二人の会話を聞いていた店長はレジの小物売り場から何かを手に二人に差し出した。
「そういうことなら・・・ほら、持っていきな」
「え?でも、これって売り物じゃ・・・」
差し出されたのは、売り物のミャオをモデルにしたキーホルダーだった。
「代金なんてあんたたちから受け取れるわけないだろう?
」 「わあ、ありがとうございます。ゆな、ケンカしたらここに来る約束ね。ミャオが仲直りさせてくれるから!」
「ケンカはできるだけしたくはないけど、そうだね、次会うときもここで会おうね」
二人はキーホルダーを見せ合いながら満面の笑みで言った。
これがある限り私たちは友達だよ。